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(「音楽人通信」1999年10月号)

「君が代」斉唱

 「日の丸」、「君が代」が国旗、国歌として法律で定められた。音楽家たちの有志が反対声明を発表し、ユニオンの大会決議のなかでも反対の意志表示がなされた。
 音楽人として一言すべきなのは、特に「君が代」の方だろう。しかしここではその適否、或いは優劣について論ずることはしない。多くの音楽人たちが、さきの声明にいうように「歌詞とメロディの結びつきをはじめ、歌詞の意味も曲のスタイルも」多くの問題があると指摘している。一方すぐれた作曲家を含む何人かの音楽人は、日本の歌としてなかなか良い、とも言っている。問題にしたいのは、「起立」という号令とともに強制的に歌わされることだ。
 政府は、お互いに国歌を尊重するのは国際的常識だから、学校教育や社会的行事で躾けとして教え込むのだ、という。しかし、号令をかけて起立させて、歌わないものにはあとで社会的糾弾がなされるなどというのは、それこそ国際的常識に反するのではないか。私の数少ない経験でも、そんなことをする国は見たことがない。コンサートのスタンディング・オベイションと一緒で、立ちたい人が立てば良いのだ。
 だいたい強制して唱わせる音楽が、どうして国民統合のシンボルになるのだろう。もし、号令をかけなければ、起立せず唱わないとしたら、それはマナーの問題というより、その「国歌」それ自体の問題、音楽作品として不出来で、歴史的にも汚点を多く持ち、自然に国民が唄い出したい、という気持にはとてもならないというだけのことだろう。そもそも、号令かけて強制的に歌わせること自体、最も非音楽的行為であって、対象になった歌に対して、むしろ失礼になるのではないだろうか。