佐藤一晴遺稿集　INDEX

■企画：制作　鈴木信幸（元「争議の焦点」編集部）

　　

　　　◇「現代労働組合研究会のページ」で紹介してきた論攷◇職能別ユニオンの現代的課題を追求！　
　　　（以下橙色はＨＰへ）　　

2017.11.25

職能的結集を見直しつつ――私たちの組織的課題《現代労働組合における組織的課題》、「労働法律旬報」、旬報社、1185号、1988年2月10日号。
2017.11.06
「職能ユニオンの可能性――開かれた労働市場と「企業社会」の乗り超え」、佐藤一晴、初出：「賃金と社会保障」（労働旬報社、1996年11月上旬号）。追悼・遺稿集刊行委員会編『一晴の夢、歩んだ世界』（2002年11月16日発行）所収。
▽2013.08.26
佐藤一晴さんのＨＰと「統一」論
日本的風土に『統一』の思想をどう実らせるか、「佐藤一晴さんのＨＰ」（日本音楽家ユニオン、東京争議団事務局長、正路喜社労組、東京労働争議研究会、1932～2002年）
2020.08.27
「日本フィルのたたかいから――豊かさを求める労働組合運動」（『労働組合の民主的変革――黒川俊雄還暦記念集』、1985年3月、労働旬報社）　（ＰＤＦ版）←ここをクリックしてください。
　１　武道館をうめつくした史上最大のコンサート
　２　日本フィルのたたかい
　３　大音楽会の果たした役割
　４　日フィル闘争と音楽=人間のすばらしさへの共感
　５　豊かさを求める文化の追求
◆感動を呼んだ、『友よ！　未来をうたえ　日本フィルハーモニー物語』など日本フィル闘争3部作！（今崎暁巳著）と映画化.
2020.08.27
同志は斃れぬ（『追悼　中林賢二郎』、労働旬報社刊、1987年2月）、佐藤一晴

　
　中林先生（「中林賢二郎のページ」）の訃報を新聞紙上で知ったとき、驚きとともに、鋭く胸を突いて浮かんできたのは、「同志は斃れぬ」という詩句だった。
　同志呼ばわりは、おこがましいのかもしれぬ。こちらの一人よがりで、先生が知られたら迷惑といわれるのかもしれぬ。しかし、私にとっては、まぎれもなく同志だった。同じ戦線で、共通の敵とたたかっているという実感があった。それだけに、こんどのことは、悲しいというより、痛手だった。
　
　中林先生に直接お目にかかるようになったのは、経済学者・故堀江正規氏を通じてである。一九六〇年代後半のことだった。当時私は長期争議の当事者だったから、さきが見えなくなると先生方にぶしつけに御意見を求めたりしていた。

　長い争議を通じて、企業内従業員組合主義を克服することこそ、日本の労働組合運動の戦略的課題だと確信するにいたった私は、堀江先生とたまたまの雑談のおり、ちょっとその考えを開陳したことがある。堀江先生の反応は拒否的で、話はすぐ他に移ってしまった。私はすこぶる落胆した。ところが一九七一年末、病躯をおしてその堀江先生が組織された学者、労組幹部の研究チーム――そこに中林先生も私も含まれていたが――に示された指針の文章「現代日本における労働組合の機能」の研究は、企業内組合の客観的条件を日本資本主義の奇形的発展形態と労働者階級の意識、社会的慣行から明確に規定されており、私はすっかり嬉しくなって、そのうちぜひ堀江・中林両先生とこの話をしたいと考えた。しかしそれは永遠に実現しないことになる。
　長かった争議もやっと終わり、私はこの頃音楽家のユニオン運動に参加して企業内組合克服の実践にとりかかっていた。そして一九七五年四月一日、労働運動史研究会にまねかれ、東京争議団共闘の運動について報告する機会をえた。この研究会の中心メンバーの一人であり、当日司会もされた中林先生からぜひ原稿にまとめろと激励され、早速執筆にかかった。なんとかまとめたのが、「東京争議団共闘の十五年」という小論であり、『労働運動史研究』五八号にのせていただき、中林先生はその序文で「こんごの労働運動の発展・強化の道についていくつかの示唆をくみとられるものと確信する」と評された。
　この小論は、争議議団共闘の運動の軌跡とその成果が示すものは、企業内従業員組合主義の克服過程だ、と結論づけたのである。ものを書くのは本職ではないし、未熟なための言い過ぎや脱線も多々はらんでいて舌足らずでもあったが、自己批判を基礎に運動の内在的批判と再構成をおこないえたのは、さいわいだった。ただ痛恨事は、報告をし執筆に入った直後、七五年の四月一〇日に堀江先生が急逝されたことである。私はなによりも堀江先生に読んでいただきたかったのだ。四月一九日に千日谷会堂でおこなわれた堀江正規さんとお別れする会では、中林先生が堀江さんの経歴を紹介された。中林先生の声調はすこぶる濠としておられたが、ときどき語尾がふるえるのを押さえかねるようにも感じられた。
　一九七八年、中林先生は「組織論的視点の再検討」を提起され、七九年には『現代労働組合組織論』を刊行されて、研究者、活動家に衝撃を与えた。論争もおこったが、私のように現場で悪戦苦闘しているものには、「百万の援軍」を得た思いだった。
　一九八〇年から八一年にかけてイギリスに留学された先生は、『イギリス通信』をだされた。この本のあとがきにもあるように、先生の研究テーマは、企業別組織の弱点克服という視点からの労働組合の基礎組織の比較とされていた。一九八二年、私は民放や映画の先輩・友人とともに、職能組織研究会なるものをはじめた。この会の理論的指導者は中林先生をおいて他にない、というのが議論するまでもない私たちの共通認識だった。先生はところよく引き受けて下さった。毎回の講師の方々も先生と御相談し、先生の御紹介で来ていただいた。もちろん中林先生御自身でも何回も講演され、毎回のように助言、コメントもいただいた。
　
　また手まえ味噌になるかもしれないが、私がこの研究会をはじめたのは、職能的結集を各産業分野にひろげようということとともに、中林先生をはじめとする研究者のかたがたを、運動の現実で激励し、さらに大胆に論を推しすすめていただきたいという願いからでもあった。この願いは、『日本の労働組合運動」シリーズの第五巻中林賢二郎編集担当の“労働組合組織論”でみたされた。中林先生はこの本の序言的文章や「組織論的視点の再検討」などの論文で、自らもその執筆者であった堀江正規責任編集『労働組合運動の理論』全七巻(一九六九年)が組織論を正面からあつかわなかった点について、自己反省にたつ内在的批判を加えられている。それは、まさにこの双書刊行後の堀江先生の、さきにふれた「組合機能論」にむいた関心を背負ってのものとおもわれる。
　私が中林先生に最後にお会いしたのは、一九八五年四月、「あれから一〇年、堀江正規さんをしのぶ会」の席上でである。先生はそのとき「堀江正規さん――その人と仕事」という講演をされた。まさかそのあと一年もたたず、中林先生御自身が逝ってしまわれるとは。
　なにか因縁めいたものも感じないわけではない。高く、広く、豊かな、堀江山脈、中林水系のさまざまな面のうち、この一つだけは私が受けつごう。といっても理論作業ではなく運動の実践でと考えたりもする。
　私たちの属するマスコミ共闘もマスコミ文化情報労組会議と名称もかえ、職種的結集へむけてあらたなたびだちをすることに決めた。いま中林先生に去られたのは、しかしなげくまい。かえすがえすも残念だ。
　先生、私にもあと一〇年も残っていないかもしれません。涙は流しません。向こうで堀江先生にお会いになったら、及ばずながら私も、なにほどかのお手伝いはしたとお伝え下さい。なお私はひとりでも、いや、必ずあらたな援軍をえてたたかいつづけることを、お信じ下さい。さようなら。
　(元東京争議団事務局長・日本音楽家ユニオン事務局次長〉