(「音楽人通信」2000年4月号)
「ブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブ」
世界中でミリオンセラーになって、グラミー賞をとった、キューバの老音楽人たちによるラテンのアルバムが映画になった。小津安二郎監督の作品を徹底的に研究したという、ヴィム・ヴェンダース監督のドキュメンタリー映画だ。アメリカロック界の異端ギタリスト、ライ・クーダーが、もう消え去ったと思われていた古老ミュージシャンを引っぱり出し、カーネギー・ホールでコンサートをやるまでを映画にした。
題名は、第二次大戦前からキューバのハバナにあった名門クラブ。主たるミュージシャンたちは、そのころからこのクラブで活躍していたというから、半端じゃない。七〇代から八〇歳超した人もいる。ピアニストがいいな。この人は一番年長ですでに引退しているのだが、なんと家にピアノがないのでこの十年ほど弾いた事がないというが、それはそれは、すごい説得力のある音をつむぎ出す。ギター弾き語りの、葉巻とパナマ帽が似合うおじいさんもすばらしい。パーカッションも、ベースも、ヴォーカルもみんないい。音楽もいいが、表情もいい。
音楽の良さと、年老いることの良さの、両方が支えあって更によくなることを、しっかりと確信させてくれる。つまり人間、この素晴らしきもの、ということだろう。生きる勇気を与えてくれる。
ハバナの街も素晴らしい。自然と民族と風土に年輪が加わって、この説得力が生まれる。私たちの仲間のなかにも、何十年ぶりかでレコーディングをし、コンサートにでたら、素晴らしいものができたという人たちがいるに違いない。誰かプロデュースしないかな。