◇社会的課題くみ上げるために 

 経済を動かす主体は、株式会社だけではない。農協、漁協、森林組合、生協、信金などの協同組合は、地域再生、環境、エネルギー、食料、就労など、社会的課題の解決に向けて、ますます重要な役割が期待される経済組織だ。

 出資比率に応じて「声の大きさ」が決まる株式会社とは異なり、組合は一人一票制により構成員の平等性が貫かれる。彼らによる民主的な組織コントロールの存在は、社会的公正を目指す経済組織としての可能性の証しだ。

 しかし現実の組合は、そうした社会的要請に十分応えているだろうか。本書は、12年の国際協同組合年を機に編まれた共同研究の成果であり、さらなる発展への途(みち)を探る。 

 とりわけ教えられるのが、第5章と第8章だ。第5章は、「組合員民主主義」の理想と現実を論じる。組合は、その事業成功ゆえに大規模化すると、管理業務の集中化・集権化が進み、組合員によるフラットな参加型民主主義から遠ざかる。より深刻な問題は、組合が所期の目標を見失い、「単一利害集団の閉鎖的組織」に陥ることだ。本章は、組合がつねに新しい社会的ニーズをくみ上げ、事業を通じて社会問題を解決する柔軟な組織体として、「組合員民主主義」を深化させることを提案している。例えばドイツでは近年、組合が再生可能エネルギー事業に参入し、原発からのエネルギー転換という社会的使命の一翼を担いつつ、事業的な成功も収めている。 

 もっとも、こうした新しい展開を図る上での障壁となるのが、根拠法の欠如だ。一般法が存在するドイツと異なり、日本では個別組合法しか存在しない。このため、再生可能エネルギーのような新しい社会的課題に進出するには別途、個別法制定が必要になり、事実上の参入障壁となる。第8章が指摘するように、組合の健全な発展のためには「協同組合基本法」の制定が急務だ。

 評・諸富徹(京都大学教授・経済学)

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 2484円・家の光協会/なかがわ・ゆういちろう 46年生まれ。明治大学教授。