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「本当の労働組合」づくりを。

○○○○○○○○○○○○○○○小越洋之助のページ


「現代労働組合研究会」のページへようこそ。



information新着情報


2024年01月01日
❖新ページ――大日本印刷に印刷ユニオンの旗を――❖全印総連・印刷ユニオン、大日本印刷分会の結成。
大日本印刷に印刷ユニオンを――分会の闘い
2022年04月29日(固定)
「労働組合とは何か―TOP」のページを新設
――木下武男著、岩波新書で発刊)、2021年3月19日、刊行。
2023年10月10日
❖新ページ――婦人労働から女性労働へ――❖人間として女性として、「人間の尊厳」を基軸に
2023年8月31日
❖新ページ――「あたり前の労働組合を」つくろう。
2023年8月31日
❖新ページ――大企業職場に「あたり前の労働組合を」
2023年8月31日
❖新ページ――新「インフォーマル組織の過去・現在」
2022年12月24日
「新型コロナ禍の非正規労働者の抵抗とその基礎」(『唯物論研究会年誌26号』、2021年10月号、大月書店)
――「飲食店ユニオン」(首都圏青年ユニオン)の挑戦、栗原耕平(専修大学大学院博士後期課程)
2022年12月24日
ウエッブ夫妻型労働組合論の歴史的位置 栗原耕平――――書評:木下武男『労働組合とは何か』(岩波新書、2021年3月19日いのちとくらし研究所報、No.77、2022年1月号)
2022年12月02日
非正規労働者でも、入れる労働組合づくり――大日本印刷の職場に労働組合を(印刷関連ユニオン・大日本印刷分会、全印総連)
――印刷関連ユニオン・大日本印刷分会の今――インフレ手当、一時金30万円の要求。
2022年04月29日
【第二部】(つづき)
課題が見えている「読者の声」:◎『労働組合とは何か』を読み解く。

◆新しい労働運動は新しい活動者集団に――千葉合同労組:ちば合同労組ニュース(第129号 2021年4月1日発行より) 新ページへ
2021年04月09日 ⇔2022年8月27日UP
◆木下武男『労働組合とは何か』を推す――酔流亭日乗(suyiryutei.exblog.jp、2021年4月9日)
2021年03月20日 (固定)
最新刊:『労働組合とは何か』(木下武男著、岩波新書で発刊)、2021年3月19日、刊行。▽「はじめに」へ。 ▽目次へ。
2021年06月05日
斎藤美奈子さんの書評:「ユニオンは下層労働者が貧困からはい上がるための武器」――『週刊朝日』(2021年6月11日号)(木下武男著:『労働組合とは何か』、岩波新書)書評で紹介!
2022年07月20日
【第一部】
POSSE48号(2021年8月):ミニ企画
ユニオニズムで未来を構想せよ:◎『労働組合とは何か』を読み解く。

座談会:燎原の火をつけろ!
現場で闘う若手アクティビストと読む『労働組合とは何か』
2022年07月20日
鼎談:ユニオニズムの創造に向けた理論と実践 浅見和彦/木下武男/今野晴貴
2022年07月28日
◆書評 『労働組合とは何か』(木下武男著)
[出典]『女性労働研究』第66号(出版社: 女性労働問題研究会、2022年4月15日、http://ssww.jp/)
浅見和彦(前専修大学教授)

2022年07月20日
【第二部】
◎Book review
インターネット上で紹介された書評などから読む

藤田孝典/佐々木隆治/岩波新書編集部/青木耕太郎/水口洋介/石川 源嗣/今野晴貴/愛知連帯ユニオン/西日本新聞/労働政策研究・研修機構
2022年07月20日
【第三部】
◎共鳴・共感の論文
若手研究者(アクティビスト)の研究

ウエッブ夫妻型労働組合論の歴史的位置 栗原耕平――書評:木下武男『労働組合とは何か』(岩波新書、2021年3月19日いのちとくらし研究所報、No.77、2022年1月号)
「非営利・協同総研いのちとくらし」
青木耕太郎:「ブラック企業に対抗する労使関係の構築」(社会政策学会誌『社会政策』第9巻第3号、2018年03月30日、ミネルヴァ書房)

2022年07月20日
【第四部】
いくつかの批判的論点

北健一/濱口桂一郎:hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)/兵頭淳史(専修大学):WEB版――労働者教育協会 教育理論研究会
2022年08月03日
【第五部】⇒新ページへ
これまでの労働組合論を読む
(以下、工事中)
改訂新版『労働組合入門 日本の明日を左右するもの』
(塩田庄兵衛著、カッパBOOKS、1961年3月初版 1966年第42刷 1967年4月改訂)
『労働組合とはなにか』 (大森誠人著、三一新書、1965年2月23日)
2022年07月31日
『労働組合組織論』(篠籐光行著、労働大学新書、1966年7月10日)/国労読本④組織編『国鉄労働者の組織と運動――その歴史と課題』(篠籐光行監修 国鉄労働組合編、労働旬報社、1978年5月20日)
2022年08月02日
『労働組合入門』(坂本秀行著、労働大学新書、1973年11月10日)
2022年09月11日
『労働組合入門』(中林賢二郎著、労旬新書 労働旬報社、1974年4月1日)
2022年09月01日
【補論】新ページへ
日本中の労働組合を破壊した「インフォーマル組織」とは何か
(まだ続く)




  
◆以下、ご自分のPCを「125%」に拡大して、読むことをお勧めします。
 ←サイト右上部の「青印」をチェックして!

 
 ◇さまざまな主張を持った「労働組合」

 現在、我が国の労働組合組織率は、16.9%(2021年12月発表)。主な組合は連合、全労連、全労協だ。
 主たる理念は、労使協調主義で生産性向上を一体となって取り組み、ストライキの忌避をかかげ、正社員を中心として組織をする企業内組合。
 またその中には「旧官公庁内での反合闘争を主張し、学習活動を図る運動を組織した」メンバーも含んではいる。
 アンチな勢力として「職場を基礎」に政治闘争を強めて、階級的民主的労働運動を志向している人たちもいる。
 その他、準中立と昔は言っていたが、個別的労使関係を大事にして、企業内組合を重視する人たちもいる。

 ◇ユニオニズムとは、本当の労働組合とは

 はたして今回、特集的に編集しているこのページの『労働組合とは何か』(木下武男著、岩波新書)は何を追求しているのか。
 基本のアピール・ポイントは、「本当の労働組合」で「ユニオニズム」を担う産業別労働組合運動だとしている。

 WEBで検索してみると、以下のページが出てきて、「トレード・ユニオニズムはマルクス主義においては改良主義で体制変革を妨げるものとして批判されていた」とされている。
 まずはこの「マルクス主義」の地平を問わなければならない。
 そのうえで、企業内組合中心の日本の現状(「職場」を基礎に)とは別に「職種を基軸に産業別労働組合」はつくりだすことはできるのか。
 中小企業などで果敢に組織化をすすめている各地の「合同労組」は、「業種別に企業横断的方向」をめざすことも、有意義なのではと思う。
 さらに「p.260
 具体的には(1)企業別組合の内部変革ではなく、外部に非年功型労働者による新たなユニオンを作る、(2)交渉相手の経営者団体に対応する「業種別」、共通規則設計の基準となる「職種別」という性格を持つ業種別職種別ユニオンによる共通規則の制定と集団取引を実現する、(3)業界の産業構造を改革する運動につなげる、などの方途を示し、最終的にゼネラル・ユニオンへと発展させるという構想である」。

 ▽世界大百科事典 第2版「トレード・ユニオニズム」の解説
 トレード・ユニオニズム【trade unionism】
〈労働組合主義〉と訳される。労働運動に関する思想の一つで,労働組合運動を重視する傾向をもつ。元来は労働組合運動そのものをさす用語であるが,レーニンがマルクス主義の立場からイギリス労働運動を批判した(《何をなすべきか》1902)際にイギリスの運動をこの言葉で特徴づけたため,社会体制の変革の必要を軽視し,賃金労働者の労働条件の改善など経済的利害を偏重する思想を意味する言葉として使われている。イギリスでは労働組合が発達していたので政治活動も労働組合を母体として生まれた労働党によって担われ,資本主義体制の枠内での改良を重視したが,マルクス主義においては改良主義は体制変革を妨げるものとして批判されていた。
 出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

 ◇アップルの店舗労働者を組織している労働組合とは

 果たして、今の大学生や高校生が学校教育では教わらない「労働組合運動の歴史」の中から産業別労働組合を発見し、創り出すことがどうしたらできるのか、至難の業だ。
 その小さなきっかけをアメリカの「産業別労働組合運動の復興」を象徴しているニュースを読んだので、その経過を書いておく。木下先生の話と少しは通底しているはずだ。

 アップルの店舗労働者を組織化しているアメリカの【SEIU】[Service Employees International Union]とは。
 facebookで「名須川昭範」さんが書いています。2022年6月20日7:35.
 
 Appleにも労働組合結成の波 インフレも背景
 2022年6月19日 12:41 (2022年6月19日 19:26更新)
 アップルは米国内で約270の直営店を運営する=ロイター

 知識がなかったので【SEIU】を検索してみた、やっぱり産業別一般労働組合だった。

 スターバックスの従業員らによる組合結成を支援してきた国際サービス従業員労働組合(SEIU)傘下の「ワーカーズ・ユナイテッド」への加入をめざしている。米メディアによると、グランドセントラル駅の店舗には投票資格を持つ従業員が約270人おり、30%の賛同が得られれば、全米労働関係委員会(NLRB)に投票を申請できる。結成の可決には投票で過半数の賛成を得る必要がある。
 →日本では「2人以上」で労働組合が作ることができるが、アメリカは違う。

 ▼エス‐イー‐アイ‐ユー【SEIU】[Service Employees International Union]とは。
 《出典》デジタル大辞泉:「SEIU」とは――《Service Employees International Union》
米国・カナダ・プエルトリコに支部組織を持つ労働組合。医療・介護・福祉・ビル管理・公務員などを中心に多様な職種の労働者で組織される。1921年にBSEIU(ビルサービス従業員国際組合)として設立。1968年に現在の名称に変更。少数民族や移民を含む非正規の低賃金労働者を積極的に組織化し急成長をとげた。約210万人が加入。サービス従業員国際労働組合。

 ▼全労連にもメッセージを寄せている。
 全労連第23回定期大会によせられた海外友好組合からのメッセージ:2016年7月26日11:00現

 米国際サービス従業員労組(SEIU)

 小田川議長、井上事務局長、全労連組合員のみなさん。
 SEIUの150万組合員を代表し、全労連第28回定期大会へ心からの祝辞を送ります。SEIUは正義を目指す私たちのたたかいにおいて、全労連を友人でありパートナーと呼べることを誇りとしています。私たちにとって全労連は経済的正義を目指す運動だけでなく、平和と環境における正義をつくるたたかいにおいても大きな刺激となっています。全労連組合員のみなさんが、ファストフード労働者のたたかい、「15ドルのために」の運動でも大きく連帯してくださったことに心から感謝しています。日本の労働者のたたかいには、私たちも連帯します。大会の成功を祈念し、今後もさらなる交流、連帯と共同闘争を期待しています。ともに立ち上がれば、私たちを止めることはできません!

 メアリー・ケイ・ヘンリーSEIU委員長

                            編集子)













   ▽2022.07.20
   


     黄変した箇所をクリックしていただくと、twitter・facebook・HPに行きます。









▽2021.03.20

 




斎藤幸平さん推薦!
「労働組合は死んだ。だが、その再生こそ民主主義再建には必要だ、
必読の一冊。」  

木下 武男 著
 定価 本体900円+税


日本では「古臭い」「役に立たない」といわれる労働組合。しかし世界を見渡せば、労働組合が現在進行形で世界を変えようとしている。この違いの原因は、日本に「本当の労働組合」が存在しないことによる。社会を創る力を備えた労働組合とはどのようなものなのか。第一人者がその歴史と機能を解説する。

役に立たないといわれる労働組合。しかし、それは「本当」の姿なのか。第一人者が描く秘めた可能性。【本の内容】










◆「はじめに」の全ページは、下をクリックしてください。
   

▽目次
はじめに
第一章 歴史編1  ルーツを探る——「本当の労働組合」の源流は中世ギルドにある
1 労働組合の遠祖・ギルドの原理
2 中世市民社会と日本でのその不在
3 職人組合から労働組合へ
第二章 歴史編2 「団結せよ、そして勤勉であれ」——職業別労働組合の時代
1 近代市民社会の形成と論理
2 初期労働組合の形成




目次の全ページは、下をクリックしてください。
   


2021.06.05
【参考】『週刊朝日』(2021年6月11日号))書評で紹介!
斎藤美奈子さんの書評:「ユニオンは下層労働者が貧困からはい上がるための武器」(木下武男著:『労働組合とは何か』、岩波新書)
   








【第一部】

▽2022.07.20


      
https://www.npoposse.jp/magazine/no48.html

◎『労働組合とは何か』を読み解く





▽2022.07.20
 












  
       (全文,PDFで読めます)




▽2022.07.20(未UP)
 











  
       (全文,PDFで読めます)



▽2022.07.20
 












  
       (全文,PDFで読めます)







▽2022.07.28
 
          [出典]『女性労働研究』第66号(出版社: 女性労働問題研究会、2022年4月15日)

           http://ssww.jp/





  
       (全文,PDFで読めます)


















【第二部】
▽2022.07.20




◎『労働組合とは何か』を読み解く




 ▽以下、twitter、facebookのURLを参照(敬称略)


◇藤田孝典:twitter

▽2021年3月18日 藤田孝典
@fujitatakanori
·
3月18日
労働組合とは何か (岩波新書)
献本いただく。新型コロナ禍で休業・失業が増加するなか労働組合、ユニオンの重要性を説くタイムリーな本。
ブラック企業対策、過労死問題、外国人や休業者支援、政策提言など、新しい「生きた労働組合」が活躍中。
是非読んでほしい。

藤田孝典 @fujitatakanori
3月18日
労働問題研究の学問の世界では、働く者のリアルな現実や運動からかけ離れた研究が旺盛になされている。
一方、運動の現場では毎年の春闘と時々の政治課題に追われ、理論を踏まえて将来をみすえた議論はみられない。
(木下武男「労働組合とは何か」[岩波書店2021]P279)



◇佐々木隆治:facebook
▽2021‎年‎3‎月‎19‎日

木下武男『労働組合とは何か』(岩波新書)がついに刊行されました! マルクスの変革理論における最重要概念、「アソシエーション」が何であるかを端的に示している本だと言えます。アソシエーションには長い伝統があり、また闘争の中で常にその形態を刷新してきたことがわかります。


岩波新書編集部:twitter 
@Iwanami_Shinsho
·
3月20日
【3月新刊その3/木下武男『労働組合運動とは何か』】日本では「役に立たない」といわれる労働組合だが、世界を見渡せば現在進行形で社会を変えようとしている。この違いの原因は? 社会を創る力の源泉は? 第一人者がその歴史と理論を解明。斎藤幸平さん推薦! http://iwnm.jp/431872


◇青木耕太郎:facebook
▽2021‎年‎4‎月‎9‎日、‏‎9:10:21

木下武男『労働組合とは何か』(岩波新書)を読了しました。
沢山の学び・気づきを得られる素晴らしい本です。労働組合運動に携わる人にはもちろん、日本で社会運動に関わる人みんなにお勧めしたい本です。
本書は、日本に「本当の労働組合」を創るにはどうすればよいのかという問題設定に貫かれています。欧米の歴史から「本当の労働組合」とは何かを学んだうえ、なぜいかにして日本の労働組合が「本当の労働組合」を創れなかったのか、そしてこれから日本でどうすれば「本当の労働組合」を創れるのかを論じています。
また、「本当の労働組合」が社会的通用性をもつ職務(ジョブ)をつくり出し、そのジョブが「男女の賃金差別やエスニシティによる賃金差別を含め、平等と差別を分ける基準」となった(同一価値労働同一賃金など)のに対し、日本の企業別労働組合は、そうした「共通規則」を打ち立てられず、職場のジェンダー差別・レイシズムを規制しなかったという趣旨のことが述べられており、日本の酷すぎるジェンダー差別やレイシズムの現状を説明する広い射程の議論になっています。
そして、本書では、これまで日本で「本当の労働組合」を創れなかった要因について、「宿命論」や「本質論」のようなもので説明するのではなく、歴史を丁寧に紐解きながら運動主体(アクティビスト)の側の「選択」の積み重ねによるものだと説明されます。
そうだとすれば、読み手(≒運動主体の側)も過去についての「反省」を迫られます(本書への否定的な意見が散見されるのはこれが理由でしょう)。
この本を読んだうえで、多くの仲間と、これから日本で「本当の労働組合」を創るための議論をしていきたいです。
著者自身も「日本でユニオニズムの花を咲かせることは想像を絶するほどの難事業だ。」と言っています。
労働者の資本への従属が著しい現代日本で、どのようにすれば「本当の労働組合」の第一歩である業種別職種別ユニオンを拡げることができるのか、労働運動の最前線で闘う多くの仲間とともに、実践と議論を積み重ねていきたいです。

◇水口洋介:「読書日記」のページ

▽2021年04月10日 18:25

読書日記 木下武男著「労働組合とは何か」(岩波新書)
•2021年3月発行
2021年4月9日読了
 労働社会学者の木下武男教授の著書です。木下教授は、長く「賃金論」をふまえた労働組合のあり方を議論されてきました。1999年「日本の賃金」(平凡新書)では日本型年功型賃金の変容と、グローバル化による職務給・職階制賃金、成果主義賃金について実態(実例)を踏まえた分析と提言(年功賃金から生活できる仕事給)をされており大変に参考になりました。
 木下教授は、この「労働組合とは何か」で、欧米の労働運動・労働組合の歴史と実態を概観した上で、日本の企業別労組の問題点を批判して、新しいユニオニズムを提言されています。
 この本の骨子は次で要約しますが、私は基本的に木下教授の意見に賛成です。
 欧米の労働組合は、ヨーロッパ中世のギルドからの伝統を踏まえたものである。手工業時代からの伝統を踏まえた熟練労働者のクラフツ(? トか―引用者)・ユニオンが力をもって職業別労働組合になり、産業革命後に機械制工場に雇われる不熟練労働者が一般労働組合を組織して戦って、それが産業別労働組合と発展し、経営者団体と交渉して産業別賃金協約を獲得するようになった。典型的には英国の労働運動であり、第二次世界大戦後には福祉国家を成立さえ(? せ―引用者)た。
 これに対して日本の労働組合運動は、戦後になり企業別労働組合が全国各地に結成され、1946年には多数派の「差別会議」(組合員数163万人)が結成された。その傘下の電産労組がいわゆる「電産型賃金」(生活できる年功賃金)を確立した。
 1946年には、米国の労働諮問団は、年功賃金からジョブ型賃金に転換するように勧告した。また、1947年の世界労連の視察団は、日本の企業別年功賃金に対して「雇用主の意志のままに悪用され、差別待遇されやすい」として「平等な基準」の「仕事の性質」に基づく賃金を提言していた。
 しかし、日本では、その後、経営側は、一時、職務給を導入しようとしたが労働側の反対を受けて、定期昇給制度に人事考課制度を結合させた日本型職能等級賃金制度を確立させていった。
 本来、日本の労働組合は、企業別組合が本流となってしても、産業別統一闘争を発展させ、産業別組合に向けて改革する努力が必要があった。産別会議は、占領軍のゼネスト中止、共産党の介入とそれに対する反発で分裂縮小して崩壊(1956年解散)した。その後の総評型労働運動も「年功賃金・企業別組合」システムを前提とした労働運動となった。春闘などの総評型労働運動の頂点は18(? 9―引用者)75年だったが、それからは凋落していく。1975年は、春闘とスト権ストが敗北した年。
 1980年以降、日本では、企業主義的統合が進み、「労使協調」路線にどっぷりつかっていくことになる。1980年代後半以降、ストライキによる労働日損失がなんと限りなくゼロに近くなることが如実に示している。年功賃金と終身雇用制という日本型雇用システムに労働者の企業意識や忠誠心という労働者の同意を獲得していった。労働者に「安定」を提供したが、「競争」と「差別」(左派労組員への差別と女性差別)が色濃い。
 そして、バブル崩壊、経済のグローバル化、経済のソフト化・IT化のもと、現状の貧困と格差が広がる現在の雇用社会、労働者の状態が生じている。
 現在の企業別労働組合を中心とした労働組合運動、数的には多数派である正社員の年功的賃金制度のままでは、社会を変えられない。旧来の日本型賃金(属人的な年功的賃金)では非正規労働者の同一労働同一賃金は実現できないし、正社員の賃金も低下していく。
 そこで、木下教授は、企業別労働組合も、産業別労働組合に内部改革することを期待しつつ、より必要なのは、企業別組合の外部に組織されたユニオンが未組織労働者を組織し、さらに業種別職種別ユニオンに発展していくことを提言している。その萌芽は確かに広がりつつあるとする。
 私も、欧州のような産別労働組合と職務給の雇用社会、社会民主主義の政治体制が日本にあれば良いと夢想しますが、いまさら日本に産別労働組合がないことを嘆いても、死児の齢を数えるようなものでしょう。
 また、これは世界的に見れば、欧米の方が特殊例外な社会(自生的に資本主義を生み出した社会だから)なのでしょう。少なくとも、アジアを見れば、多くは日本のような企業別組合が中心のようです(これはなぜでしょうかね?)。例えば、韓国も左派も右派も企業別労組だし、それでも韓国では中央産別組合の交渉力は強いようです。もっとも、韓国の労働組合組織率は10%で日本の16%よりも低い。
 木下教授が言われるように、年功型正社員の企業別労組が産業別闘争に大きく踏み出すことに期待しつつ、「貧困と格差」にあえでいる大企業以外の普通の未組織労働者を、業種別ユニオン(一般労組)が広く組織化し、企業を超えた産業別・業種別な労働組合が発展していくことが必要だと思います。
 日本の組織率は民営企業で16.2%ですが、1000人以上の大企業が全体の66%を占めており、99人以下の企業では推定組織率は0.9%しかありません。日本では99人以下の企業に雇用されている労働者数は、全体の雇用労働者のうち半分です。広大な未組織分野があるわけです。
 企業別労組と労組員、そしてナショナルセンターは、これら企業外に組織されたユニオンを応援し、オルグを増やすための財政援助をしたらユニオンは発展するのではないでしょうか(オルグを増やす余裕がない)。ただ、この方向を指向しているとは見えません。どちからというと、企業内労組を基本としており、中小企業にも企業別労組を組織する方向や、非正規労働者を企業別労組に加盟させる方向を指向しているように思います。この点は、連合も全労連も同じと感じます。
 アメリカのAFL-CIOは20世紀末頃、若いオルグを抱えるために大幅な財政援助(要するにオルグの賃金)をして、労働運動を活性化させたと言います。日本の企業別労組にも是非、期待したいものです。

◇石川 源嗣:facebook
▽2021年4月16日 17:26 ·

木下武男『労働組合とは何か』(岩波新書2021.3)を読み終わった。
読む前に、北健一さんのfacebook(下記引用)での評価を見て、思わず「いいね!」を押そうと思ったが、「ちょっと待てよ、同じ結論になるにしても、いくら何でも読まずに押すのは失礼でまずいだろう」と思い直し、読了した次第である。
正直言って、ここ何年か、木下武男さんの主張に違和感があったことは否めない。
それは、木下さんの主張に問題があったのか、きちんと読まなかった私の問題なのか、よく分らない。
それはそれで考えたいと思っている。
問題は今回の『労働組合とは何か』である。
結論から言うと、非常に気合の入った労作であり、学ぶことは多く、考えさせられるもので、多くの労働運動関係者にぜひ読んでいただきたいと思う。
北さんが言う、
<著者が「あだ花」と呼ぶ、企業別組合が単組の多数をしめる日本の労働運動や産別組織、ナショナルセンターは、さまざまな課題を抱えつつも全体としてみれば大切な社会的資源です。労働組合の再生は、歴史との決別ではなく、真摯な振り返りをふくむ継承の先にあるはず。その際、本書が扱っていない海外の近年の努力はもちろん、著者には「あだ花」と映っているらしい日本の労働組合の先人たちの歩みも参考になるものが多々あると感じます。
どんな制度にせよ、その国に根付いたものには、根付くだけの理由と事情があります。ヨーロッパの産別組合こそ素晴らしいというのはほぼ同感なのですが、企業別組合を全否定すれば解決するほど日本の労働者が直面する課題は単純ではないと思います。>
この点については私自身はもちろん、木下さんも異論はないと思う。
しかし、ここが本書の主要な論点ではないのではないか。
著者の主眼は、「企業別組合」という組織形態の追求では労働運動の発展はかちとれないというところにあると思う。
つまり、最終章の「日本でユニオニズムを創れるのか」の是非である。
より実践的には、「4 ユニオニズムの創り方」のところ。
ひとつの結論は、
「労働運動の再生は日本では産業別組合ではなく、ゼネラル・ユニオン(一般労働組合)が適合的だと考えられる」(p270)。
これは木下さんの前からの持論なのか、新しい見解なのか、よく分らないが、賛成である。
少なくとも、以前の『格差社会にいどむユニオン』(花伝社2007.9)では、ゼネラル・ユニオンの評価は今回ほど明快でなかったと思うだが。
たしかに木下さんの「ゼネラル・ユニオン構想」は、「業種別・職種別ユニオン」が中心軸として位置づけられており、そこには正直、違和感があるのだが、それにしても、「ゼネラル・ユニオン」重視へ軸足を変えているように、私には見える。
よい変化・発展は支持すべきと思う。
しかし、同時に本書に対して全面同意とはいかないのも実感だ。
欧米労働運動への無批判と思われる評価、日本の戦後労働運動、企業別組合への清算主義的な匂い、さらに運動停滞の原因を「制度政策」、システムに求めるのはどうかなど。
だが、「1975年の暗転」など戦後労働運動史をはじめ労働運動の総括面で学ぶところは多いことには変わらない。
地域合同労組で闘い、全国一般労働組合全国協議会で活動してきた身としては、まったく不十分の現状ではあるが、方向性としては「我が意を得た」の感もある。
木下本を労働組合運動再生の出版点、たたき台として肯定的に位置づけたいと思う。
しかし現在の真の課題は、「4 ユニオニズムの創り方」での提起の先にあると思う。
明日からどう闘うか。
ひと言で言えば、新自由主義による徹底した階級解体の現状に対し、いかに、どこから階級形成をかちとるか。
今後の共通するいちばん肝心の課題と言える。
―――――――――――――――――――――――
北 健一
3月25日 16:37 ·
血沸き肉躍る「歴史」、賛成し難しい「結論」
昭和女子大名誉教授・木下武男さんの近著『労働組合とは何か』(岩波新書)を読みました。私は講演を何度も聴いてリスペクトし、研究会にお呼びいただいたこともあったので、すぐに買って読み進めました。
中世のギルドにさかのぼってルーツを探りつつ、職業別組合、一般労働組合、米国の展開という歴史を骨太にたどる記述は、象徴的場面の活写がすばらしく、敗北と勝利、無念と高揚がよみがえるようです。「働き方(労使関係)の変容→新しい課題の浮上→古い形態の組合の無力→労働組合の形態転換」という基本的視点も説得的ではあります。
他方、日本の現状への評価には、労働組合ないし労使関係の一端にいる身として首を傾げざるを得ません。戦後労働組合、とくに企業別組合は「あだ花」(p278)であり、その歴史と「完全に決別すること」(p205)が提唱されているからです。
著者があげる東京電力の労務管理などは指弾されるべきものですがかなり特殊なケースであり、それをもって企業別組合の典型とするのは行き過ぎでしょう。年功賃金が賃下げを生み出している(p212~)というのも論拠が? 不十分ではありますが「賃上げの復活」こそ近年の労使関係の特徴ですし、本書で年功賃金の弊害とされるものは、むしろ査定、恣意的人事評価の弊害と見るべきでしょう。関西生コンや音楽ユニオンの評価は私も賛成ですが、著者の描く全体の構図はいささか一面的な感じがします。
前半は魅力的で、個々の指摘も鋭いのに、なぜこうした「結論」に至るのか。一つの理由は、労働運動ないし労使関係の最新の分析が踏まえられていないこと(米国ではニューディール期まで、英国では第二次大戦頃まで)であり、もう一つは、日本の実際の労働組合、労使関係への目配り、実証が限定的で、企業別組合批判が決めつけになっている点にあるように私には思えます。
著者が「あだ花」と呼ぶ、企業別組合が単組の多数をしめる日本の労働運動や産別組織、ナショナルセンターは、さまざまな課題を抱えつつも全体としてみれば大切な社会的資源です。労働組合の再生は、歴史との決別ではなく、真摯な振り返りをふくむ継承の先にあるはず。その際、本書が扱っていない海外の近年の努力はもちろん、著者には「あだ花」と映っているらしい日本の労働組合の先人たちの歩みも参考になるものが多々あると感じます。
どんな制度にせよ、その国に根付いたものには、根付くだけの理由と事情があります。ヨーロッパの産別組合こそ素晴らしいというのはほぼ同感なのですが、企業別組合を全否定すれば解決するほど日本の労働者が直面する課題は単純ではないと思います。労働組合について真摯に書かれた著書について感じたことを真摯に書かないのは不誠実だと思い、書いてみました。
(三木さんのコメントを受けた追記)
上記は、全体的結論への評価を書いたもので、本書の個々的論点には深い示唆が含まれています。著者は、「労働問題は……国家の権力的統制のまえに、当事者の自主的組織化と統制によるべき」であり、「権力万能」論は退けるべしとする氏原正次郎の論を引き、「日本では道のりは遠いが、『権力万能』論を排し、労働社会における産業別の労使対抗基軸論をとり、力を蓄えていくべきだろう」(p152~3)という指摘など、強く共感しました。


◇今野晴貴:yahooニュース
▽2021年4月18(日) 9:00
新入社員は労組に入るべき? 木下武男『労働組合とは何か』(岩波新書)から考える

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
2021/4/18(日) 9:00


(提供:ideyuu1244/イメージマート)

 4月となり新入社員は社内の労働組合に加入するか悩んでいる場合も多いと思います。また、日本では企業別組合が主流ですが、日本の労働組合はあまり「役に立たない」ともよく言われています。
 そこで今回は、ちょうど4月に出た新刊、『労働組合とは何か』(木下武男著、岩波新書)を素材にして、そもそも労働組合とは何か、日本の労組はじっさいにあまり役に立たないのかといった疑問に答えていきたいと思います。


労働組合の機能とは
 
 日本の労働組合法は、労働組合の目的を「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的」と規定しています。また、労働組合法は、その目的を達するための手段として団体交渉権、争議権などを定めています。
 なるほど、労働組合とは労働条件の維持改善その他の経済的地位の向上を目的とする団体だといわればその通りでしょう。労働組合は賃金など労働条件をめぐって企業と団体交渉を行うことを知っている読者も多いと思います。
 ところが、『労働組合とは何か』によれば、「労働組合の目的から、労働組合とは何かを考えようとすると、答えがわからなくなる」といいます。また、この目的という点だけから考えると、日本の労働組合がどう本来の労働組合と異なるのかも、わからなくなってしまうということです。 
 では、本当の労働組合を理解するカギは何でしょう。それは、労働組合の「機能」と、それを実現するための「手段=方法」です。
 まず、機能について著者は次のように説明します。
「労働組合の根源的機能とは「競争規制」である。労働者がバラバラにされ、相互に競争をさせられている。この状態に対して労働組合が労働者を結合させ、労働者同士の競争を規制する、これがユニオニズムに他ならない」(70頁)。
 今日の日本社会でも、仕事を求める人はたくさんおり、相互に競争しています。応募者が多ければ、賃金は需要と供給の関係から低い方向に移動していきます。そこに歯止めをかけているのが最低賃金法ですが、日本でも、最低賃金周辺の雇用が非常に多いのです。
 最低賃金以上の仕事を増やしていくには、労働者同士の競争の抑制が必須です。19世紀、労働組合を研究したことで有名なウェッブ夫妻は、競争を抑制する労働組合の機能は「共通規則」の設定によって実現すると説明しました。
 「(労働者が個別に使用者と交渉する) 個人取引」のもとでは 、労働者の生活はとめどなく悲化する 。その悪化をくい止めるにはどのようにすれがよいのか 。そこでウェッブが、当時の労働組合をつぶさに観察して探り当てた概念が「 共通規則」(コモンルール )である」(72頁)。
 賃金についての「共通の規則」が設定されれば、それ以下の仕事は許されなくなりますから、労働者間の低賃金へ向かう競争は抑制されます。その方法には、先ほども述べた最低賃金法のような「法律」という手段もあります。
 これに対し、労働組合は「集合取引」の方法によって、競争を抑制します。そして、「これこそが労働者間競争を規制する方法の中心的な位置を占めている」のです。
 例えば介護や保育といった特定の業種で、職種別の最低賃金を労働組合が業界団体と交渉して決めたとします。新任の介護士は時給1200円といった具合です。こうすれば、介護をしたい人がたくさん労働市場にいても、1000円、900円と最低賃金までさがっていくことはありません。
 これを実現するためには、もちろん前提があります。その業界の労働者のほとんどが組合に入っており、業界団体と交渉しなければ、「抜け駆け」が発生してしまうからです。だから、労働組合は同じ業種やおなじ職種でまとまって交渉する必要があるのです。
 いずれにせよ、労働組合の目的は労働条件の維持改善であり、その「機能」は「共通規則」にもとづく労働者間競争の規制であり、そのもっとも重要な「方法」は集合取引です。
 これが本書が示す「労働組合とは何か」ということの答えです。

日本の労組は役立たない?

 日本の労働組合の圧倒的多数は企業別組合です。おそらく、新入社員が加入を悩んでいるケースの多くも、企業別組合だと思います。では、日本の労働組合は、先ほどの労働組合の「目的」や「機能」、その「方法」の視点からは、どう評価できるのでしょうか。
 まず、「目的」に関しては、とうぜん企業別組合も労働条件の維持・改善を目指しています。「方法」に関しても、会社内の労働者が経営者に対して会社ごとの「集合取引」を行っています。社員の給与がどのように上がるのかなど、企業別組合は会社と労働協約によって取り決めをしています。
 このようにみると、確かに日本の企業別組合も、労働組合としての役割を果たしているようです。組合に入って集合取引に参加することで、労働条件の維持・改善ができそうに思えます。
 しかし、「機能」に着目すると、日本の労働組合は、労働者間競争を抑制するというその本質的な役割を果たしていないことがわかります。企業別組合は労働者間の競争を抑制していないからです。まず、一見して企業別組合は職種別や産業別の賃金を設定しませんから、労働者は企業間の競争に巻き込まれることがわかります。
 ある企業の賃金が1000円だとして、別の企業が900円だとします。すると、900円の企業はより安く製品をサービスを提供することができ、市場で有利に立ちます。すると、1000円の企業の労働者も、会社に「協力」して900円に引き下げることに同意せざるを得なくなってしまいます。つまり、「共通規則」が企業の中にとどまっていることで、ほとんど無効になってしまうのです。
 そうすると、労働組合もどんどん企業の利害と癒着していき、その交渉能力がなくなっていきます。実際に、私が日々経験する労働相談では、「社内の労組にパワハラを相談したが、上司に報告され、よりひどくいじめられるようになった」という相談が後を絶ちません。非常に残念なことです。結局、企業に閉ざされた交渉の「方法」が、労働組合の「機能」を発揮させないのです。
 また、『労働組合とは何か』では、特に年功賃金の問題を指摘しています。企業内の「共通規則」に思える年功賃金も、実はその競争抑制の機能を果たしていないといいます。
(年功賃金という)「この「 安定」のシステムは同時に「 競争」のシステムでもある 。「競争」のシステムは二つの仕組みからなっている 。まず 、職級は線のように描かれているが、それは幅をもった帯状の線だ。その線は上下各5%幅がある。その範囲で人事考課制度の査定がはたらく。この幅のなかで 、査定でよい評価を得ようと競争することになる」(191頁)。
 本書より引用した下の図をご覧ください。これは典型的な年功制を採用している東京電力の賃金体系ですが、年齢とともに右に行くほど、号数が上がり賃金が上がります。しかし、そのあの線の中にも上下5%の差があって、上がるか下がるかは企業が決められるということです。もちろん、その「査定」はどれだけ会社に貢献したのか、という「競争」を引き起こすことになります。
       
      『労働組合とは何か』190頁より。
 
 著者は続けて次のように指摘します。
 あと一つの「競争」は号俸のラインの進み方にある。号俸のラインを横に進んで、最後まで達して上位の職級に上がるのではない。それでは大幅な昇給はできない。実際には、いくらか進むと途中で上位の職級に上がることができるようになっている。この上位の職級へ上げるかどうかが、会社の裁量に完全にゆだねられている 。このことが決定的だ上位の職級に行けなければ昇給は遅々として進まない。この号棒における上下幅の査定と、早期の昇級を競い、他の従業員よりも早く昇進しようとして競争がなされる。このようにして企業内の労働者同士の「競争」システムができあがっている(同上)。
 このように、結局年功賃金は、労働者間競争を抑制する「共通規則」とは似ても似つかないものなのです。実際に、戦後日本社会では激しい出世競争が繰り広げられ、「過労死」を蔓延させました。日本発祥の「過労死(Karoshi)」は世界語にもなっています。
 日本で過労死が蔓延し、今日も収まらない重要な要因は、賃金に「共通規則」がないからです。そして、日本の労働組合が本来の「機能」を発揮していないことが、その理由なのです。
 さらに、共通規則の不在は労働を過酷かさせるだけにとどまりません。社内のパワーハラスメントやセクシャルハラスメント、いじめなども、上のように人事の裁量が大きいために、社員は批判できない構造ができあがっています。上の東京電力の例では、危険な原発に対し、従業員が声を上げることができなかった理由にもなったと指摘されています。労働組合の在り方は、企業の不祥事や産業の在り方とも密接に絡んでいます。

結局、労組には入るべきか?

 実は、日本の労働法は企業別組合に入ることを義務付けたり、奨励したりは一切していません。海外のように社外の労組に直接加入することは自由ですし、労働法はそうした労働組合も全面的に保護しています。
 そのため、社内労組に力ない場合には、外部労組に入ることも一つの選択肢になるでしょう。社外労組(コミュニティーユニオンや業種別・職種別ユニオン)では、賃金の未払いや解雇・雇止めに加え、パワーハラスメントなどの労働問題にも対応しています。
 とはいえ、『労働組合とは何か』が示したような「本来の労働組合」の機能は、社外労組であっても発揮できません。日本社会に広がる非正規雇用差別や「ブラック企業」の問題を解決していくためには、労働時間や賃金に対する「共通規則」を実現することが不可欠です。
 『労働組合とは何か』では、現在の労働組合を改革していく「方法」についても詳しく書かれています。労働組合を作ることや、現在の組合を改革することは、組合員の自由です。法律は労働組合の「機能」については、何も決めていません。だから、ほんとうの労働組合を作る担い手は、私たち自身だということになります。
 それではユニオニズムの創造というミッションをいったい誰が担うのだろうか。これまでみてきた歴史から、おのずと明らかだろう。担い手は一人ひとりの自覚した個人である。組織や他人から命じられたわけではない。自発的な意思にもとづく個人が、しかも、バラバラにではなく、相互に結びついた集団として自覚的に行動する。彼らこそ活動家集団(ユニオン・アクティビスト)である(274頁)。
 このような道を進むためには、現在は個人の問題や小さな企業の労使交渉を地域単位で担っている社外労組が職種別の「集合取引」を実現できるように発展することや、現在の企業別組合が職種別の交渉単位に組み込まれていく必要があります。本書では、一人一人の組合活動家の努力で、そうしたことを実現できる可能性があるといいます。
 少し長いですが、最後にその道筋を引用します。日本の労働組合に加入するということは、日本の労働組合を機能させていくために取り組むことともかかわっていることがわかると思います。
(社外の一般労組から発展する)業種別職種別ュニオンは、未来のゼネラル・ユニオンの「トレード・グループ(職種別の交渉単位)」として位置づけられる…それらが結合することで、やがてゼネラル・ユニオンの全国組織が生まれる。小さな営みはやがて大きな流れとなるだろう。
 今ある産業別の全国組織や合同労組、コミュニティ・ユニオンなどもこの方向に向けて改革をめざすことが期待される。企業別組合もユニオニズムを創造する流れに合流することだ。例えば企業別組合の中心メンバーが外部の個人加盟ユニオンに二重加盟するなどして、労働者の連帯のエネルギーを企業内に環流させることをつうじて「内部改革」は進むだろう。合同労組やコミュニティ・ユニオンも、そのなかにある業種別部会を地域的な交流や企業別組合の集合体にとどめることなく、だんだんと業種別の結集軸に発展させていくことが求められる。このことをなし得たら、業種別職種別ユニオンと、既存の労働組合の「業種別グループ」とが連携し、集団交渉も可能になるだろう。それをへて、業種・職種を結集軸にした労働組合の合同運動を展開する段階に入ることができる(272頁、()内は引用者)。
 日本の労働問題に取り組み、研究してきた筆者もこのような労働組合の改革は、日本社会を変えるために必須だと思います。ぜひ、実現できるとよいと思います。

おわりに

 今回は『労働組合とは何か』を手掛かりとして、労働組合とは何か、そして日本の労働組合の実情についてお話してきました。問題はなかなか根深いという印象を持たれた方も多いと思います。
 社内で問題があるとき、迷ったらまずは社外の労組を選択肢にいれることをお勧めします。個人の問題を解決するためには、それが一番近道です。そして、企業内に労組も積極的に活用し、問題があれば内部改革を目指していくことも長期的には重要です。私たち一人一人に、日本の労働社会の未来がかかっているのです。

▽社外労組の無料労働相談窓口
総合サポートユニオン
03-6804-7650
info@sougou-u.jp
*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。
ブラック企業ユニオン 
03-6804-7650
soudan@bku.jp
介護・保育ユニオン
03-6804-7650
contact@kaigohoiku-u.com
*関東、仙台圏の保育士、介護職員たちが作っている労働組合です。
仙台けやきユニオン
022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)
sendai@sougou-u.jp
*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。
労災ユニオン
03-6804-7650
soudan@rousai-u.jp
*長時間労働・パワハラ・労災事故を専門にした労働組合の相談窓口です。

今野晴貴
NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。11月に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』を青土社より刊行予定。その他の著書に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。


◇愛知連帯ユニオン:
労働者によるマルクス主義研究
⇒現在は掲載されていない。
▽2021年05月06日

http://aichi2rentai.xsrv.jp/?p=1618

21.本の紹介:木下武男 「労働組合とは何か」岩波新書
「あとがき」にあるように、本書は、労働運動史の専門家ではない木下先生が、アカデミズムの研究と運動現場をつなぎ、活動家が運動の展望を議論するためのツールとして、労働組合の形態転換論の観点から労働運動史を切り取り、まとめたものです。
木下先生の意図する通り、労組の活動家が最低知っておくべき歴史と知識が280ページに読みやすくまとめられています。また、第8章の2では、「日本における産業別労働組の登場」として関西生コン支部の運動とそれへ弾圧について25ページを割いて端的に記されています。
1. 本書の内容
本書の内容を少し紹介します。
ヨーロッパでの労働組合は中世市民社会の「対内的平等」と「対外的独占」を原理としたギルドをルーツにしており、それが職業別労働組合(クラフトユニオン)に進化して労働者階級の階級意識の形成が始まった。産業革命によって大量の不熟練工が生み出される中、産業別労組(あるいは産業を単位とする労組の集合体である一般労組・ゼネラルユニオンをめざす運動)が職業別労組に取って替わっていく。
米国では、最初に熟練工と自営農民となった北西欧の移民が流入した後、南東欧のから流入した第2次移民が大量の不熟練工を形成した。それは職業別労組・アメリカ労働総同盟(AFL)から産業別労働組合(CIO)、さらには「ワンビックユニオン」をめざしたIWWの結成に向かった。これに対して、企業側はアンチ・ユニオニズムの強硬な攻撃に訴えつつ、他方でカンパニー・ユニオン(従業員組織)を作り、運動を会社の中に封じ込めていった。その後、米国ではニューディール政策の中で1935年ワーグナー法が成立、産業別労組が再生していくが、ヨーロッパのような産業別労働協約体制は築けなかった。
日本の場合、熟練工の萌芽は渡り職人にあったが、高揚する労働組合運動を個別企業内に抑え込む土台となったのが欧米にはなかった企業内技能養成制度とそれに基づく年功賃金であった。ここに日本労働運動の宿痾ともいえる「年功賃金と企業内労組」の原型が形成されていった。1946年に163万人で結成された産別会議は共産党の政治主義もあって瓦解、1950年には企業内組合をまとめあげた総評に席を譲る。しかし、戦後労働運動の一時代を築いた総評は、労働者間競争を規制する産業別団体交渉の方法と制度的方法が欠落しており、1960年までに民間大企業が第二組合の結成で、その後の官公労の運動も1975年スト権ストの敗北を最後に停滞へと向かった。
1992年のバブル崩壊以降、貧困と雇用不安が日本を襲い、膨大な非(弱)年功賃金労働者と非正規労働者が生まれている。熟練工から非熟練労働者への転換が職業別労組から産業別労組の転換の土台になったように、日本は、今、企業内労組ではないユニオニズムの創造、労働市場への規制力を持つ本当の労働組合の形成をめざすべき時だ。変化は必然だが自動的ではない。組織主体の意識性が不可欠だ。
2. 若干の感想
本書が呼びかけるように、自覚的意思で結ばれた活動家集団によって、「ワンビックユニオン」をめざして、膨大な非年功賃金労働者と非正規労働者を産業別労組に組織し労働組合を再興していきたい。
歴史的なストライキはどれも単なる労働の放棄・同盟罷業ではなかった。ピケッティングのないストライキはない。労働組合の団体行動権を守り抜こう。
ヨーロッパに産業別労組が確立する過程は、歴史的には欧米列強による帝国主義の世界支配が成立していく過程であった。米国では第1次世界大戦に反対したIWWに弾圧が襲いかかり、ニューディール政策では大恐慌から脱出できずに第2次世界大戦へと向かった。
日本の産別会議は朝鮮戦争に先立つレッド・パージで壊滅させられた。現在、膨大な非正規労働者が生み出さていれる世界は、同時に世界支配のパワーシフトの進行する時代でもある。帝国主義の世界支配と労働運動の関係は、もうひとつの重大なテーマだと思う。
2021年5月6日
愛知連帯ユニオン・S

◇西日本新聞:読書
▽2021年5月27日 17:30


『労働組合とは何か』木下武男著(岩波新書、990円)
 働けど楽にならない暮らし。だが、頼りになるはずの労働組合にかつての勢いはない。その弱体化の原因は、日本に「本当の労働組合」が存在しないことにある──と説く労働社会学の第一人者が、労働運動の源流となった欧州のユニオニズムの歴史と理論を概観し、日本の労働組合の未来を構想する。

おすすめ読書館
話題の新刊や、九州ゆかりの本などを紹介します。ツイッター「西日本新聞・書評面『読書館』」(@nishi_books)では毎週木曜日、次回取り上げる書籍を紹介しています。

おすすめ読書館
『労働組合とは何か』木下武男著
2021/5/27 17:30 『西日本新聞』

働けど楽にならない暮らし。だが、頼りになるはずの労働組合にかつての勢いはない。その弱体化の原因は、日本に「本当の労働組合」が存在しないことにある──と説く労働社会学の第一人者が、労働運動の源流となった欧州のユニオニズムの歴史と理論を概観し、日本の労働組合の未来を構想する。


◇労働政策研究・研修機構:ホームページ

1. 木下 武男著『労働組合とは何か』岩波書店
(2021年3月刊,xi+288p,新書判)

「仕事がつらい」「転職しても状況は変わらない」「先が見えない」――著者はこんなときこそ労働組合が頼りになるのではないかと指摘する。労組は従来、貧しく虐げられた人たちが身を守り、生きるために闘う武器だったはずだと強調しつつも、実際には何をしているのかわかりづらいという。一番存在感を示すのは、春闘で大企業の賃上げが報道されるときだとしたうえで、日本の労組の力が欧米諸国に比べて弱いのは「世界標準の産業別組合(ユニオニズム)」の伝統が根をおろしていなかったことが影響していると分析。ユニオニズムの種は戦前の日本にも持ち込まれていたが、戦後になり育つうちに、世界であまり見たことのない土着の花(企業別組合)を咲かせてしまったと解説する。

著者は、日本でユニオニズムを創造するには、戦後続いた企業頼みの生活、企業中心の労働、家族を犠牲にした暮らしから解放され、自分の人生や仲間を大切にする生き方に転換するべきだと主張。そのために、① 労組のルーツを歴史から探る ② ユニオニズム理論を学ぶ ③ 労組の未来を構想する――などを再考するよう提案する。



2022.08.02up

  
   △上記をクリックして新ページへ。







【第三部】
▽2022.07.20


:アクティビスト(Activist)とは本来「活動家」を表す英語ですが、株式の世界では株主としての権利を積極的に行使して、企業に影響力を及ぼそうとする投資家を指します。




ウエッブ夫妻型労働組合論の歴史的位置
――書評:木下武男『労働組合とは何か』(岩波新書、2021年3月19日)

◇栗原耕平:いのちとくらし研究所報、No.77、2022年1月号
▽2022年1月25日








  
       (全文,PDFで読めます)




青木耕太郎:PDF版
ブラック企業に対抗する労使関係の構築
――(社会政策学会誌『社会政策』第9巻第3号、2018年03月30日、ミネルヴァ書房)

    





  
       (全文,PDFで読めます)








【第四部】
▽2022.07.20

 





◇北 健一:facebook
▽2021年3月25日

血沸き肉躍る「歴史」、賛成し難しい「結論」


 昭和女子大名誉教授・木下武男さんの近著『労働組合とは何か』(岩波新書)を読みました。私は講演を何度も聴いてリスペクトし、研究会にお呼びいただいたこともあったので、すぐに買って読み進めました。
中世のギルドにさかのぼってルーツを探りつつ、職業別組合、一般労働組合、米国の展開という歴史を骨太にたどる記述は、象徴的場面の活写がすばらしく、敗北と勝利、無念と高揚がよみがえるようです。「働き方(労使関係)の変容→新しい課題の浮上→古い形態の組合の無力→労働組合の形態転換」という基本的視点も説得的ではあります。
他方、日本の現状への評価には、労働組合ないし労使関係の一端にいる身として首を傾げざるを得ません。戦後労働組合、とくに企業別組合は「あだ花」(p278)であり、その歴史と「完全に決別すること」(p205)が提唱されているからです。
 著者があげる東京電力の労務管理などは指弾されるべきものですがかなり特殊なケースであり、それをもって企業別組合の典型とするのは行き過ぎでしょう。年功賃金が賃下げを生み出している(p212~)というのも論拠が? 不十分ではありますが「賃上げの復活」こそ近年の労使関係の特徴ですし、本書で年功賃金の弊害とされるものは、むしろ査定、恣意的人事評価の弊害と見るべきでしょう。関西生コンや音楽ユニオンの評価は私も賛成ですが、著者の描く全体の構図はいささか一面的な感じがします。
 前半は魅力的で、個々の指摘も鋭いのに、なぜこうした「結論」に至るのか。一つの理由は、労働運動ないし労使関係の最新の分析が踏まえられていないこと(米国ではニューディール期まで、英国では第二次大戦頃まで)であり、もう一つは、日本の実際の労働組合、労使関係への目配り、実証が限定的で、企業別組合批判が決めつけになっている点にあるように私には思えます。
 著者が「あだ花」と呼ぶ、企業別組合が単組の多数をしめる日本の労働運動や産別組織、ナショナルセンターは、さまざまな課題を抱えつつも全体としてみれば大切な社会的資源です。労働組合の再生は、歴史との決別ではなく、真摯な振り返りをふくむ継承の先にあるはず。その際、本書が扱っていない海外の近年の努力はもちろん、著者には「あだ花」と映っているらしい日本の労働組合の先人たちの歩みも参考になるものが多々あると感じます。
 どんな制度にせよ、その国に根付いたものには、根付くだけの理由と事情があります。ヨーロッパの産別組合こそ素晴らしいというのはほぼ同感なのですが、企業別組合を全否定すれば解決するほど日本の労働者が直面する課題は単純ではないと思います。労働組合について真摯に書かれた著書について感じたことを真摯に書かないのは不誠実だと思い、書いてみました。
 (三木さんのコメントを受けた追記)
 上記は、全体的結論への評価を書いたもので、本書の個々的論点には深い示唆が含まれています。著者は、「労働問題は……国家の権力的統制のまえに、当事者の自主的組織化と統制によるべき」であり、「権力万能」論は退けるべしとする氏家正次郎の論を引き、「日本では道のりは遠いが、『権力万能』論を排し、労働社会における産業別の労使対抗基軸論をとり、力を蓄えていくべきだろう」(p152~3)という指摘など、強く共感しました。

⇒このfacebookでは多数の実践家を踏まえて「ツリー状態」で、発信されています。ぜひ、読み込んでいただきたい。





◇濱口桂一郎:hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)
▽2021年3月25日



 2021年3月25日 (木)
木下武男『労働組合とは何か』
Kinoshita 木下武男さんの『労働組合とは何か』(岩波新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.iwanami.co.jp/book/b559580.html

日本では「古臭い」「役に立たない」といわれる労働組合。しかし世界を見渡せば、労働組合が現在進行形で世界を変えようとしている。この違いの原因は、日本に「本当の労働組合」が存在しないことによる。社会を創る力を備えた労働組合とはどのようなものなのか。第一人者がその歴史と機能を解説する。

しかし、本書については、「ありがとうございます」で済ますわけには生きません。

「労働組合論という今どきあまり関心を持たれない」(あとがき)テーマを一般向けの新書で取り上げたという意味では、昨年の『働き方改革の世界史』を書いた私としては、おざなりではなく、疑問点をいくつも提起しておくべきだと考えるからです。

ジョブ型雇用の希薄な日本でジョブ型労使関係をどう論ずるのかという問題意識がほぼ類似しているからこそ、そこをきちんと指摘しておかなければなりません。

本書の構成は次のようになっています。

はじめに
第一章 歴史編1 ルーツを探る――「本当の労働組合」の源流は中世ギルドにある
 1 労働組合の遠祖・ギルドの原理
 2 中世市民社会と日本でのその不在
 3 職人組合から労働組合へ
第二章 歴史編2 「団結せよ、そして勤勉であれ」――職業別労働組合の時代
 1 近代市民社会の形成と論理
 2 初期労働組合の形成
 3 産業革命と労働者の階級形成
 4 職業別労働組合の確立
第三章 分析編1 労働組合の機能と方法
 1 労働組合とは何か
 2 労働組合と政党
第四章 歴史編3 よるべなき労働者たち――一般労働組合の時代
 1 新労働組合運動(ニュー・ユニオニズム)の台頭
 2 一般労働組合の基盤と組合政策
 3 労働組合の形態転換と労働政治
第五章 歴史編4 アメリカの経験――産業別労働組合への道
 1 労働運動の二つの潮流
 2 職業別組合の限界と産業別組合の挫折
 3 労働者の企業別分断と産業別組合の対抗
第六章 分析編2 いかにして社会を変えるのか――ユニオニズムの機能
 1 産業化の新しい段階と産業別労働組合
 2 労働組合機能の発展
 3 産業別組合組織と産業別統一闘争
第七章 歴史編5 日本の企業別労働組合――日本的労使関係の形成・衰退
 1 戦前第一期――「渡り職工」と横断的労働市場
 2 戦前第二期――戦前期労働運動の高揚と弾圧
 3 戦前第三期――日本的労使関係の戦前期形成
 4 戦後第一期――労働運動の高揚と日本的労使関係の形成(一九四五~六〇年)
 5 戦後第二期――企業主義的統合と労使協調の労働組合(一九六〇~七五年)
 6 戦後第三期――労働戦線統一と総評解散(一九七五~九〇年)
 7 戦後第四期――戦後労働運動の危機とユニオニズムの創造(一九九〇年~)
第八章 分析編3 日本でユニオニズムを創れるのか
 1 時代の転換と働く者の悲惨――雇用不安、貧困、過酷な労働
 2 日本における産業別労働組合の登場
 3 ユニオニズムの主役はどこにいるのか
 4 ユニオニズムの創り方
あとがき
参考文献

第1章から第4章までは主としてイギリスを舞台に展開します。拙著ではウェッブ夫妻の本で説明したトレード型の「集合取引」の世界です。

第5章はアメリカに舞台を移します。ジョブ・コントロール・ユニオニズムの世界です。

しかし、話はそこで終わってはいないのです。

イギリスはその後、労働組合のコントロールの及ばないショップスチュワードの世界が展開し、それが政治問題になり、それがちょうど拙著ではアラン・フランダースの本で説明した辺りですが、その後サッチャーの手で労働組合に壊滅的な打撃が加えられ、労働組合による集団的決定の世界は非主流化してしまいました。今のイギリスはむしろノンユニオン型です。

アメリカはその後、ジョブコントロールユニオニズムが行き過ぎて、経営側の攻撃の前にどんどん縮小していきます。拙著ではブルーストーン親子の本で説明したところですが、今のアメリカもメインストリームはノンユニオンです。

そこのところが、本書は明示的に書かれていません。

敢えて言えば、半世紀前に書かれた労働運動史みたいです。当時の労働史研究では、なんといっても断然イギリス、次いでアメリカ、その余はおまけみたいな感じでしたからそれでいいでしょう。でも2021年に出す本でもそれでいいのかというのが最大の疑問です。

実は、以上の次の第6章の分析編では、現在の産業別組合の機能が説明されていますが、そこで登場するのはドイツです。いやそれはわかります。いま現在、産業別組合が業界団体と協約を結んでその職種別賃金が各企業に適用されるなどという仕組みが大々的に行われているのはドイツなど大陸ヨーロッパ諸国なのですから。でも、その歴史は歴史編にはほとんど登場しないのです。

ここに、私は本書の一つ目の問題点を見ます。半世紀前の英米労働史中心史観のままでは、現在の世界の労使関係状況を分析できないのではないかということです。そしてそれはもう一つの大きな論点につながります。

なぜドイツ始めとする大陸ヨーロッパ諸国は産業別労働条件決定システムを維持しているのか。人によっていろいろ議論はあると思いますが、まちがいなく事業所委員会などの企業内従業員代表制が企業内のことを担当してくれているから、安心して企業の事情に引きずられない産別決定が可能になっているのではないかと思うのです。この話が、本書では欠落しています。むしろ、従業員代表制がアメリカでは会社組合とされ禁じられてしまうがゆえに、安定した企業レベルと産業レベルの分業体制が構築できず、今日のノンユニオン型に陥ってしまったのではないか、ということを考えれば、これは極めて大きな問題です。

この世界の労使関係の歴史における認識のズレが、本書後半における日本の歴史にも現状分析にも影を落としているように見えます。議論の軸が大幅にずれているのです。

敢えて言えば、ジョブ型とメンバーシップ型の軸と、政治志向における左派と右派の軸が混交してしまって、分析が濁っているように見えます。終戦直後の生産管理闘争を遂行した極めて急進左派的な産別会議は、その実相においては産業報国会の嫡子であり、その後の産別民同を経て総評、連合に流れ込むメンバーシップ型の企業主義的労働運動の中心なのです。むしろ、戦前の企業外的運動を受け継ぐ総同盟の方がジョブ型に近い感覚を残していました。

このあたりは、先日遂に終刊してしまった『HRmics』に、沼田稲次郎の『現代の権利闘争』を引用しつつ論じたところであり、また昨年なくなった桝本純さんのオーラルヒストリーの中で彼が力説していたところでもありますが、ここでは前者から沼田の鮮烈な分析を引用しておきましょう。

「戦後日本において労使関係というもの、あるいは経営というものがどう考えられているかということ、これは法的意識の性格を規定する重要なファクターである。敗戦直後の支配的な規範意識を考えてみると、これにはたぶんに戦争中の事業一家、あるいは事業報国の意識が残っていたことは否定できないと思う。生産管理闘争というものを、あれくらい堂々とやれたのは極貧状態その他の経済的社会的条件の存在によるところにちがいないが、またおそらくは戦時中の事業報国の意識の残存であろうと思われる。事業体は国に奉仕すべきだという考えかた、これが敗戦後は生産再開のために事業体は奉仕すべきだという考え方になった。観念的には事業体の私的性格を否定して、産業報国とそれと不可分の“職域奉公”という戦時中の考え方が抽象的理念を変えただけで直接的意識として労働関係をとらえた。」
「すると、その経営をいままで指導していた者が、生産サボタージュのような状態をおこしたとすれば、これは当然、覇者交替だったわけで、組合執行部が、これを握って生産を軌道にのせるという発想になるのがナチュラルでなければならない。国民の懐いておった経営観というものがそういうものであった、経営というものは常に国家のために動いておらねばいけないものだ。しかるにかかわらず、経営者が生産サボをやって経営は動いておらない。これはけしからん。そこで組合は、われわれは国民のために工場を動かしているんだということになるから、生産管理闘争というものは、与論の支持を受けたわけでもあり、組合員自身が正当性意識をもって安心してやれたということにもなる。」
「たとえば組合専従制というもの、しかも組合専従者の給与は会社がまるまる負担する。組合が専従者を何人きめようが、これは従業員団であるところの組合が自主的にきめればいいわけである。また、ストライキといっても、労働市場へ帰って取り引きする関係としてよりも、むしろ職場の土俵のなかで使用者と理論闘争や権力の配分を争う紛争の状態と意識されやすい。経営体としてわれわれにいかほどの賃金を支払うべきであるかという問題をめぐって経営者と議論をして使用者の言い分を非難する-従業員としての生存権思想の下に-ということになる。課長以下皆組合に入っており、経営者と談判しても元気よくやれた。ときには、「お前らは戦争中うまいことやっていたじゃないか」というようなこともいったりして、経済的というよりもむしろ道義的な議論で押しまくった。団体交渉の果てにストライキに入ると、座り込んで一時的であれ、職場を占拠して組合の指導下においてみせる。そして、経営者も下手をすれば職場へ帰れないぞという気勢で戦ったということであろう。だから職場占拠を伴う争議行為というものは、一つの争議慣行として戦争直後は、だれもそれが不当だとは考えておらなかった。生産管理が違法だということさえなかなか承服できなかった。職場、そこはいままで自分が職域奉公していた場所なのだから、生産に従事していた者の大部分がすわり込んで何が悪いのか。出ていけなんていう経営者こそもってのほかだという発想になる。」
生産管理闘争をやるくらい急進的な企業主義的組合だからこそ、それが左右のベクトルを変えれば生産性向上運動に邁進する企業主義的組合にもなるという、このメカニズムこそが、戦後日本の労働運動史を理解するための鍵なのです。民間労組が協調化した後、なお左派運動をやっていた公的部門の労働運動も、国労にせよ全逓にせよみんなやたらに大きな企業別組合なのであって、なんらジョブ型ではなかったし、政治的に潰されると見事に民間型の企業主義的組合になったのも、政治的論評はともかくとして、労働組合としての本質はなんら変わっていないとしかいいようがないのです。

ここは、現代日本の労使関係を論ずる上でのキモになるところだと思うので、きちんと指摘しておくべきだと思います。






◇兵頭淳史(専修大学):WEB版――労働者教育協会 教育理論研究会
▽2021年09月04日
木下武男著『労働組合とは何か』(岩波新書、2021年3月刊)をめぐって
報告:兵頭淳史(専修大学)











⇒以下、工事中!



 

 





   
   




▽工事中。
◇[レイドロー報告]・協同労働をめぐっての論評
2021年6月17日 (木):現代「労働問題・労働組合運動」に関する4冊の本。



 
▽2021.02.09
 




シーアンドシー出版の関連出版物
   
●『協働の未来に光あれ! パラマウント製靴の歩みと労働者生産協同組合へ』(パラマウント製靴共働社の石井光幸さんが編集した。シーアンドシー出版刊、1995年8月、B5判並製、400頁)
●『皆でたたかった50年――全日自労三重県本部の歴史』
全日自労三重県本部・協同総合研究所編、
シーアンドシー出版、1996年
46判上製
●『AARPの挑戦-アメリカの巨大高齢者NPO』
日本労働者協同組合連合会編
シーアンドシー出版
1997年10月、定価2,000円 (税別)、46判:257p







仕事おこしのすすめ 池上惇著
  シーアンドシー出版・協同総合研究所、1995年3月
  (PDF完全復刻版)


  1933年 大阪市生れ。
  1956年 京都大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科、同助手、助教授を経て、
  現 在(当時) 京都大学経済学部教授・経済学博士・文化経済学会会長・財政学会理事・全国共同作業所連絡会顧問。その後福井県立大学大学院経済・経営学研究科教授、京都橘女子大学(現・京都橘大学)文化政策学部長・教授を歴任
 
  著 書 『地方財政論』(同文舘)、『管理経済論』(有斐閣)、『情報化社会の政治経済学』(昭和堂)、F人間発達史観』(青木書 店)、『福祉と共同の思想』(青木書店)、『経済学一理論・歴史・政策-』(青木書店)、『財政学』(岩波書店)、『文化経済学のすすめ』(丸善ライブラリー)、『生活の芸術化』(丸善ライブラリー)、『経済学への招待』(有斐閣)ほか多数。

  • 目次

  •   序 章 仕事おこしと協同組合
    ――労働者協同組合運動の展望によせて

     一 協同組合の原点と新たな位置づけ

     ◇協同組合運動の誕生 
     ◇働くものの生活を総合的に支援する仕事おこし運動 
      ――協同組合運動の基本的な特徴
     ◇悪徳ビジネスとの競争に勝てる条件を考えよう 
     ◇公正競争の権利・生存権保障・人間発達の権利、そして、情報化社会

     二 仕事おこし・地域づくり運動の現代的意義

     ◇「よい仕事」をおこす運動の発展 
     ◇「仕事おこし・地域づくり運動」の公共性

      第一章 日本における仕事おこし運動

     はじめに
     ――仕事おこし運動の今日的意義

     一 戦前の仕事おこし運動

     ◇協同組合運動として 
     ◇賀川豊彦のマルクス論 
     ◇「雇われもの意識の克服」
     ◇ラスキンから現代的に学ぶ 
      「主体的な人間の発達」
      当時の仕事おこしの実践例
      映画制作の意味

     二 生産協同組合の仕事おこしとは何かl

     ◇消費者欲求と結んで 
     ◇生きがいをもてる仕事の回復 
      ――生産協同組合の再生
     ◇生産協同組合はむずかしい、との指摘 
     ◇生活様式の変化と結んだ独自の方向 
     ◇全組合員で運営する経営

     三 現代の仕事おこし運動の可能性

     ◇生きがいをもてる仕事の回復 
      ――ドラッカーの指摘
     ◇ほんもの志向と対人サービスの増大 
     ◇素人から始め専門職を育てる 
     ◇まちづくりの視点と結びついた協同の運動 
     ◇多様な専門家の必要性の増大 
     ◇教育と福祉でまちおこし 
     ◇新社会資本レベルの活用 
     ◇まちづくりと農村とも交流して 
     ◇「よい仕事」と公的支援の追求の重要性 
     ◇不況から脱却へ

      第二章 現代の協同労働の可能

     一 現代の疎外と労働状況

     ◇疎外状況の広がり
     ◇「人間は馬より劣っている」か

     二 協同組合発展の基礎を考える

     ◇消費者の生きがいと結び
     ◇生協が日本で伸びた理由
     ◇生活の質を変える欲求の高まり
     ◇協同組合の高揚の意義
     ◇公共と自治体からの支援の高まり

     三 労働の人間化と協同労働

     ◇労働の人間化
     ◇「情報の共有化」とネットワークづくり
     ◇潜在能力の発揮と協同組合労働

      第三章 労働者協同組合と人間発達

     一 非営利組織における人間の問題

     ◇障害者運動から生まれた発達論 
     ◇自力で学習できる環境づくり
     ◇発達段階に応じた適切な援助 
     ◇人間の交流は対話から 
     ◇非営利団体での人間発達とは? 

     二 組合をダメにする11のカギ

     ◇人間発達に逆行する「11のカギ」 
     ◇相互交信できるコミュニケーションを 

     三 仕事の発見と「社会の記憶」

     ◇価値観を転換するキーワード…
     ◇実践が「社会の記憶」をつくり出す 
     ◇「社会の記憶」は人間と組織の発達の基盤 
     ◇「社会の記憶」と共に情報の活用を

     四 能率と民主主義の両立にむけて

     ◇自らの労働のあり方を研究する運動
     ◇労働と教育を運動で結ぶ
     ◇労働者協同組合運動は国民発達保障の労働 
     ◇発達を保障する「委員会」活動 
     ◇情報機器の積極的な活用 
     ◇新しい組織論発展の契機

      おわりに
       ――仕事おこし運勤と社会改革

     一 仕事おこしと新しい時代――雇われもの根性の克服
     二 国民の生活様式の変化
     三 「生きがい」をつくりだす芸術文化の仕事おこし
     四 新しい地域をつくるために
     五 労働者協同組合運動の発展のために







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現代労働組合研究会のHP
  
  労働組合・ユニオンの動向
  それぞれの労働運動史・論 1
  それぞれの労働運動史・論 3
  それぞれの労働運動史・論 4
  労働組合・労働問題の本
  ユニオンショップを超える
  連合を担う人たち
  全労連を担う人たち
  
全労協をになうひとたち
  インフォーマル組織の過去・未来




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編集人:飯島信吾
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